自己意識とロボット

 最近読んだ自己意識について調べた際に見つけた関連本を2冊紹介する。

 最初は自己意識そのものに特化したものではないが、「まんが 哲学入門」という書である。全編まんがで哲学の基本的な問題を対話する内容だ。

 哲学者の著者自身が下絵を全部描いたという、あまりにシンプルな(丸に目や口と手足をつけたような)画によって、日常生活で棚上げされている大問題に対する深い話が進められていく。時間、存在、「私」、生命といった基本的な内容に正面から取り組んでおり、これまでの一般哲学書の中でも優れた書であると思う。読みやすさの反面、理解と考察が追いつかなくならないように注意が必要だ。

 また通常の哲学書でなく、まんがでなければならなかった理由は読めばわかるだろう。文章を読むこともまんがを読むことも、どちらも体験には違いないが、文章では伝えにくいような、ある種の体験を通してしか伝えにくい性質のものをまんがで表現した試みである。ハーディングの気づきの実験に近いものだ。

 人間においても意識とは何か自体が理解しにくいものであるが、さて、このような気づきも含めて科学的に取り組み、さらに現実的な応用ができるものであろうか。
 生体への神経科学的な研究の他には、情報信号の原理的な方面からの工学要素的なアプローチが考えられる。

 次に紹介するのは、「心をもつロボット―鋼の思考が鏡の中の自分に気づく!」という書で、ロボットに意識を持たせるという問題に取り組んだ研究内容がまとめられている。

 題名の最初の部分だけでは、AIに関する評論やニューラルモデルの機能説明を並べた類書を想像してしまう。しかし、この書は、題名の後半の本質的な問題への自らの研究成果をわかりやすく一冊にまとめて提示している。

 ロボットにおいて、外部から意識や感情があるように見える単なる擬似プログラムではなく、実現象としての意識・感情の本質自体を工学的に達成すべく正面から挑戦した内容である。
 
 人間意識のいくつかの特徴を示す二重ニューラルネットワーク構成を開発し、その回路を意識特性の最小単位とみなし、ライプニッツにちなんでMoNADと名づけている。 「私」というものを表現しようとすると、「私という対象を認識する私」という無限遡及に入ってしまうが、この認識過程をループ化してコンパクトにしたようなものだろうか。いわゆる物自体というのも、意識の中ではその感覚面が表象として扱われる。自己の行動であれば行動表象として扱われる。認識ないしは認知と行動の一貫性が意識の源という発想から、認知情報と行動情報が対応して持続サイクルとして安定処理できている状態をもって意識が確立した状態とみなせると論じている。

 さらに、このMoNAD回路を3つ組み合せて、鏡に映った自己像を自己の反映と判定する研究が行われた。
 知覚入力と行動出力の関係性と表象信号のフローの中に自己意識を生じさせるメカニズムを求めるものだ。ロボットが鏡に映った姿を見たり、自分の信号で他のロボットを操作する場合の表象信号の相関度を比較して、自己と他者を実験的に判定している。他者の行動を模倣するミラーニューロンの特性も合わせて説明されている。
3つの回路は物真似ないし理性、距離感ないし感情、両者の連合の働きを有している。

 この研究には、従来からの哲学思想を背景に持っており、直接関連する事項は合わせて簡潔に説明されている。著者は色々疑問があるでしょうねと言いながらも、紙面ではあえて多くを語らない部分もあると思われる。そのため、どうしてこういった手法で意識を実現したと言えるのか、クオリア(実感)については再現できているのかについては、読者による考察が要求される。一方、このシステムについての神経学的な対応がわかると良いのだが、意識と神経信号の関係を明らかにすること自体が難しいだろう。将来、量子論的なシステムとして発展する可能性についても期待したい。





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