知覚の時間錯覚効果

 峰隆一郎の小説「明治剣鬼伝」で意図的に目を閉じて、反応速度を向上させる達人の話があった。
 小説は別として、もう少し正確に知覚の認識時間に関する生理学的研究はないかと思っていたところ、「大人の時間はなぜ短いのか」〈集英社新書)という本に、知覚のタイムラグに関する研究結果がいくつか解説されていた。
以下の①、②はペッペルという人の研究結果である。

①知覚の処理時間
光速は音速より遥かに早いものの、人間の脳内での情報処理は視覚より聴覚の方が0.04sほど早い。
視覚:光→網膜→→→→→→→→脳内での画像処理→認識(見える)  0.17s
聴覚:音→鼓膜→耳小骨→蝸牛→脳内での音声処理→認識(聞こえる) 0.14s

数十m以上離れた場所で同時発生した光と音では、物理的に遅い音は光より遅れて聞こえるが、
0.5m以内で光と音が同時発生した場合には、音の方が早く聞こえるように感じる。(自分で試しても分りにくいが)
一応、人は見かけの距離に応じて脳内で時間感覚の補正を行っているらしい。

②同時性の窓 
知覚の種類により同時性の幅は異なり、以下の時間幅内での出来事は同時と感じられるという。
聴覚の時間分解能が一番優れているため、時間の前後判断は聴覚優位でなされるらしい。
・視覚 0.02~0.03s
・聴覚 0.0045s
・触覚 0.01s

③知覚のタイムマシン効果
 タイムマシン効果といっても物理的にではなく、ほんのわずかだけ知覚の順序を逆転させる錯覚の話である。
①での同時発生する光と音の場合では、異なる知覚間の時間差によるものだった。今度は、光と音の時間的に後の事象でも、その近くで先の事象より早く別の先行刺激が存在すると、体験者に時間の前後判断を逆転させることがある。詳しいことは本書にパラパラマンガの説明があるので見て欲しい。

 一般相対論では重力場により時間の進み方が遅れるのであった。一方、こちらのタイムマシン効果は体感的なものである。注意力が注がれた場所で、スポット的に情報処理が集中して行われ、処理時間が短縮化されて時間の進みが他より速くなるためにそう感じるらしい。

 スポーツの判定でも起こりうる話であるが、生理学上そう知覚されるものであるから、訓練しても直すことはできない。因果律を逆転させるような形でマジックやトリック等で応用できるネタにまでできると面白いと思う。

この書には、他にも知覚の錯覚を生み出す方法や時間の長さを左右する要因等の興味深い内容が書かれている。


大人の時間はなぜ短いのか (集英社新書)
集英社
一川 誠

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 上書で登場したペッペル氏の著書「意識のなかの時間」も読んでみた。

感覚情報は脳内で3秒程度の時間範囲で一つに纏められて、現在意識と感じられることからペッペル氏は「3秒の窓」という呼んでいる。脳意識の最小時間単位は0.03sである。この最小時間内で神経振動が持続しており、意識においてはいわば量子化された「無時間的時間」に相当する。(脳波の周波数で言えば、β波相当だろうか。)

 先の聴覚の時間単位より長いようだが、聴覚では左右の耳にクリック音を聞かせるとき、千分の数秒程度だと一つの音として聞こえ、それより長いと時間のある別の音として聞こえるという。聴覚は、最も小さい「同時性の窓」となっている。触覚では千分の10秒、視覚では千分の20~30秒程度の窓の広がりとなっている。嗅覚と味覚の同時性は測定困難のためデータはないらしい。

 ここまでのところは同等の二つの刺激が一つのものか二つのものかと感じられるという話だった。さらに、その刺激の時間的継起の前後を判断する場合には、聴覚、触覚、視覚のいずれも千分の30~40秒程度の時間差が必要であるという。


意識のなかの時間
岩波書店
エルンスト・ペッペル

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 聴覚で空間的な錯覚や時間的な錯覚が起こる話は、以下の2冊でも説明されている。




空耳の科学~だまされる耳、聞き分ける脳~
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柏野 牧夫

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